森の開拓をするにあたって、木を伐る伐採作業は必須の仕事になります。伐採はとても危険な作業です。でも少し慣れてくるとその危険さを忘れてしまいます。
忘れた頃に事故に見舞われます。素人から始めて講習も受けて何度か作業してという経験を経てきました。そんなある日、大事故に遭いそうになりました。「これではいかん」改心しました。
伐採をするときの心構えやノウハウを自戒の意味も込めて、覚え書きとして書いています。新たに気づいたり、学んだことを加筆しています。伐採初心者の人の参考になれば幸いです。
「九死に一生」体験
僕が伐採の本当の怖さを知ったのは、死を身近に感じた体験をした出来事からです。
2023.1.13の朝10時頃。いつものようにフィールドの木を伐採していました。その場所にはアカマツとニセアカシアが交差しています。どちらも伐ってスペースを開けたい、そんな思いでした。
最初にアカマツを伐倒しました。傾いた方向へすんなりと倒れていきました。「これならいけそう」とばかり、ニセアカシアへ向かいます。これが油断の始まりでした。
受け口、追い口を入れ、ツルを残す。基本通りやりました。でも木は倒れていきません。クサビを打ちます。びくともしません。
「何で?」と木のはるか上をみると、横にあるアカマツにニセアカシアのYの字になった枝がはまり込んでいるのが原因だとわかりました。
もうツルまで伐って切断面で根と木がズレた状態になってしまっています。「下から刻んでいくしかない」これも素人考え、よくありませんでした。
ただそれまでかかり木になって倒れないとき、下から刻んでいく方法が何度かうまくいっていたので、それで進めました。
最初の刻みはうまくいきました。木が下へずれ落ちてきます。2回目も同様、木がずれ落ちてきます。3回目も同じ。もう一回刻めばすべて倒れてくれる状態まで来ました。
後で振り返るとわかるのですが、このとき残った木は「ほぼ垂直に」立っていました。これが事故への原因につながります。
刻みを入れます。チェンソーが木の重さで挟まってしまいます。くさびを打ち、少し幅を開けます。またチェンソーを動かす。その時でした。どうも木が動いたような感じがしました。
ここからはどうなったか記憶がおぼろげです。憶えているのは、目の前に大木が倒れてきていること。「あ、もうこれで終わりか・・・」と感じたこと。頭に木がめり込んでくるような感覚・・・
我に返ると、チェンソーを投げ出し、倒れこみ、からだの前に木が乗っかるような状態になっていました。周囲に何もなければ木が真正面から直撃、おそらく死亡、死ななかったとしても重大な被害を受けていました。
ところが、横に倒れていたアカマツとニセアカシアの曲がった枝がつっかえ棒のようになり、ヘルメットに当たった位置で木は止まっていました。
まさに九死に一生を得た瞬間でした。
横にあったアカマツ、曲がったニセアカシアの枝、倒れこんだ身体が埋まった落ち葉のクッション、無意識にチェンソーを手放したこと、ヘルメットのカバーが顔を守ってくれたこと・・・
いくつかの偶然が重なって、かすり傷だけで済みました。おそらく森の神様が助けてくれたのだろう・・・振り返ってそんな思いになりました。
それまでも危険な行為は何度もやってきました。でもこの実体験を経て、伐採には十分にも十分すぎることはないくらいの心構えと準備が要ると痛感しました。
一本一本と向き合う
木を伐っているとチェンソーが切り込みに食い込んで動かなくなります。これを食われるといいます。初心者にはしょっちゅうあります。ちなみに僕もちょくちょく経験します。
一度チェンソーが食われると、抜く作業に四苦八苦します。復旧までに時間が掛かります。だから食われないようにするのが一番です。
プロの林業家の人がスイスイ大きな丸太を伐っているのをみて、「何でそんなにできるんですか?食わないんですか?」と訊いたことがあります。
「木を見ているからね。切り込みのスキマ幅が小さくなったら食われる、逆に大きくなったら跳ねる。伐る前にもどういう状態なのか見てから始める・・・」
という話をしてくれました。そう「一本一本の木を見ている」というのが深いところです。伐採するなら相手になる木と向き合う必要があります。
「見栄えが悪いから伐る」「見晴らしを良くするために伐る」「フィールドを整備するために伐る」・・・普通に思うことですよね?でもこれってよくよく考えるとすべて自分の都合です。
木は生き物です。伐るということはその命を絶つということです。それまで何年、何十年かけて育ってきた木。それが自分たちの都合で一瞬にして命を絶ち、様相を変えてしまうわけです。
そもそもこの入口のところがちゃんと心に留めておかないから、その報いとして危険な状態、ひいては大事故になってしまうのだと思います。木と向き合うときは気を抜かず集中します。
細くて小さな木であっても、この気持ちを忘れることなく、目の前にある一本一本と大切に向き合いながら伐っていく、いや伐らせていただくという気持ちをもつことが最も重要と感じます。
足場と逃げ道をつくる
伐採作業に入る前に必須になるのが現場周辺を整理整頓です。木枝や草が散乱していたらそれらを取り除きます。特に大事になるのが足場づくりです。
森の中には、無数の小さな木枝の端が出ています。足をとられます。つるがあると引っかかってこけてしまいます。防護ズボンをはいているのに加え、斜面なので思ったように動けません。
木が倒れ始めたら安全な場所へ退避しないといけません。足をとられるような状態だと、いざ逃げようというときに支障になります。
「このくらいならいいか・・・」慣れてくるとついついこんな気持ちになります。気を抜いたときに問題が起こります。一本一本、面倒に思っても、きちんと準備してから作業スタートする。絶対にやった方がいいです。
どう倒れるか木を観察する
作業に入る前に木をしっかり観察します。まず木はどちらへ向いているか、傾きはどうかです。次に上の方を見ます。枝がどう張っているか、周辺の木とどんな位置にあるかです。
木の向いている方向と傾きをみて、どちらへ倒れようとするのかを予想確認します。普通に考えると傾いている方、重量が掛かる方へ木は倒れていきます。
ただなかなか理屈通りにはいかないのが伐採の世界。現場で実際に木を見て感覚を養っていくしかないと思います。
木はそれぞれ倒れ方に癖があります。一本一本を観察することなく、いきなり作業に入るのは厳禁です。
なめて掛からない・あなどらない
「このくらいの細さならサッと伐ればいい」とついつい考えがちです。僕も直径が10センチ程度の木を受け口をつくらず一方方向から伐ってしまったことがあります。
すると、思わぬ方向から木が倒れてきて肩に触れました。そんなに太くない木が触れただけなのに、しばらく痛みが残りました。もしこれがそれなりの太さで正面に来ていたらどうなっていたか・・・恐ろしくなりました。
「心してかかれ!」「ちゃんとやれ!」「感じろ!」
後述で紹介する講習会でベテラン講師が伝えていたメモが残っています。その意味がこんなところにあるのだと後になってわかりました。
かかり木と向き合う
倒そうとする木が隣の木の枝や葉とからまり、倒れる途中で止まってしまう状態をかかり木といいます。木と木が密集している森林だとしょっちゅう起こります。
僕たちのフィールドはまさにかかり木のオンパレードでした。伐る前から絡まっていそうなもの、倒木も絡んで余計に複雑になったものなどいろんなケースがあります。
かかってしまったものをそのまま放置することはできません。何としても倒さないといけません。後作業が大変です。わかっていても、「あ~、またかかっちゃった」と何度同じことをして困ったか数知れません。
その都度、YouTubeで勉強しました。小径木はガターカットなど伐り方を考える、かかったらフェリングレバーで回したり、テコで使って動かしてみるなど、ケースバイケースでやってみることになります。
でも現場では予想もできないことが起こります。学んだことがそのまま生かせない場面も多々あります。やっては失敗、またやっては失敗を繰り返しながら試行錯誤してきました。
かかり木処理は時間がかかり危険な作業です。かからないようにするのがベスト。でもついてまわるものなので、かかったらどう対処するかを頭に入れながら進めることをおすすめします。
一人で作業しない
伐っていると木がどう動いているかわかりません。ヘルメットをかぶると上の方が見づらくなります。イヤーマフをするので、チェンソーの音とヘルメットで周囲の声は聞こえなくなります。
伐採作業をするときはペアになる人にいてもらうこと。相手に自分が見える位置に立ってもらって、声ではなく手旗や笛などで合図してもらうなど工夫をしましょう。
時間を決めない
伐採は思いの他、時間が掛かる作業です。山は斜面なので行ったり来たりするだけでも時間を要します。時間だけでなく労力が掛かります。無意識のうちに体力も消耗していきます。
僕たちも「今日は余裕がないからここだけやろう」「今から2時間でやれるところまでやろう」ということがありました。そんなときに限ってかかり木になって日が暮れて焦ったことが何度かあります。
これは良くありません。焦ったり無理をすると事故につながります。伐採作業は時間に余裕をもって臨んでください。
道具と燃料を携帯する
現場では注意していてもチェンソーが木に挟まる状態がしょっちゅう起こります。挟まらないように注意していても「こんなので挟まるの?」といった事態が起こります。
無理して引っ張っても抜けないし、やり過ぎるとチェンソー自体が壊れてしまいます。力のかけ方を間違って、チェンソーが自分の方へ飛んでくると大けがをします。無理やり引っこ抜くようなことはNGです。
いったん挟まると作業がストップしてしまいます。挟まったチェンソーの復旧作業だけでそれなりの時間を要します。木を伐っているより挟まった復旧作業の方が長かった・・・なんてこともありました。
その場で慌てず対処するためには、くさび、ハンマー、手のこぎりなどがすぐに取り出せるよう、復旧に必要な道具は手元に準備しておきましょう。
もう一つ携帯しないといけないのが燃料。それなりの作業をするとガソリンがなくなります。同時のチェーンオイルも補充が必要です。いったん山に入ると取りに戻るというのは現実的ではないですよね。
以前、林業家さんの仕事に同行させてもらったときはペットボトルのようなものに小分けして現場へ持っていってました。ペットボトルは良くないと思うので何か容器があるといいように思います。
伐採の基本を学ぶ教材
上記のように素人が試行錯誤しながら森の手入れを進めてきました。「こんなときどうしたらいいの?」「基本の考え方は?」「どういう作業を覚えたらいいの?」など作業をする都度勉強しています。
何をみて勉強するのがいいのか。いろいろと見たり調べたりしてきましたが、その中でもとっておきの2つをご紹介しておきます。参考にしてみてください。
チェンソー作業従事者特別教育講習
林材業労災防止協会という公的機関が主催する講習会です。伐倒作業に関わる知識、チェンソーに関する知識、振動障害の予防知識、関係法令、チェンソー点検整備、チェンソー操作、伐木の方法などを習得する2日間プログラムです。
テキストも基本知識が網羅されているので復習で活用できます。仕事として伐採をする人には必要な講習として、そんなに費用も掛からず修了証ももらえるので受講をおすすめします。
岩手の林業普及班チャンネル
講習だけだとその場でわかったつもりになるだけで、実際に作業に入るとどうしたものかになります。本だけだとなかなか理解ができないのが伐採伐倒作業。実際に動く映像がベターです。YouTubeはそれなりにみてきました。
YouTubeはいろんな人がいろんな切り口で解説しています。ただどれも断片的で動画を作っている人のレベルもさまざまです。ほんとにこれでいいの?という類もあります。
そんな中、これは!というイチオシで見つけたのがこのチャンネル。おきく指導員が登場するのですが、彼の解説は的確かつゆっくりで、指導レベルも高くとてもわかりやすいです。
☑チェンソーは腕だけで持たない、身体の近くでどこかで支える
☑ハンドルは親指も入れて握る
☑トリガーは人差し指と親指の両方で操作できるように
☑チェンソーの縦と横の持ち替え
☑ブレーキのオンオフ切り替え
☑丸太を伐るときの方法
☑受け口、追い口の正しいつくり方
など基本としてマスターしておきたい内容が全て盛り込まれています。僕自身、何年も自己流でやってきたので、「あ、そうことだなんだ!」と腑に落ちることばかりでした。
これから伐採を始める人は、動画の中にあるトレーニングをやった方がいいです。いきなり現場で木を伐るから大変なことになります。「練習は裏切らない!」指導員の名言です。
残念ながらおきく指導員が異動してしまい更新が止まってしまいました。でも基本的なことは網羅されているので必聴の価値ありです。
まとめ
伐採作業は一にも二にも安全第一です。安全に作業するためには何が必要なのか。基本になる知識をしっかりと身につけて現場に出ていくことをおすすめします。
周りに何もない静寂の中、山や森の中で木を伐る感覚は他で味わうことができません。木や自然としっかり向き合いながら、森の将来も少し頭の隅に置きながら、森の手入れをたのしんでいきたいものです。
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