僕たち夫婦は、58歳と56歳というアラカン世代から森の小さな家を自分たちの手でつくりました。もちろんずぶのド素人です^^
家がつくりたくて・・・でやったことではありません。森の開拓作業をやりながら、何となくそんな流れになったというのが本音です。
実際にやると、家づくりのプロセスは他では味わうことができない感動の日々でした。人生初の連続、ハードルもたくさん待ち受けていました。
この記事では、そんな森の小さな家づくりの魅力をまとめてみました。森の暮らし、セルフビルドに興味がある人のヒントになればうれしいです。
森の家づくりに至ったきっかけ
そもそもなぜ森の中に家を建てることになったのか。最初はそんなこと全く考えていなかったんですね。
清々しい森の中で焚き火ができるフィールドをつくりたい。ゲストをお迎えしたとき管理人として数泊できるような小屋でもつくろうかな・・・これが最初の思いでした。
たまたまフィールド近隣に一級建築士の友人が住んでいました。相談を兼ねて話していると、h本宅的な家づくりへと話題が広がりました。軸組み工法という日本古来の建築のやり方。そうあの大工さんの世界ですね。
聴けざ聴くほど何だか惹き込まれていきます。「じゃあトライしてみよう!」という軽い気持ちからスタートすることになります。この後に予想をはるかに超えるような事態が待っていることも知らずに・・・。
「半年もあればできるんじゃないの?」今思えば何て無謀なことを考えていたことでしょう。
こんな安易な動機から小さな家づくりは始まっていきました。
家づくりのプロセス|セルフビルドへの挑戦
家の設計図面は一級建築士にお願いしました。後でわかったことですが、この図面、僕たちのために描いたものではありませんでした。
「小さな家に必要なものを散りばめる、こんな家ってできないかなあ?」と彼がイメージの中で描いたものだったのです。
頭の中にあったイメージをカタチにしていく。その日から建築士のサポートのもと、本格的に家づくりがスタートします。
そこは森の中、いきなり家には行き着きません。敷地になる周辺の木々の伐採から始まりました。
中には樹齢80年クラスの大木も。手強いものは近所の林業屋さんに依頼しました。
こうしてやっと敷地スペースがそこそこ見えてきます。
次の難関が基礎。斜面だらけのスペース。ベタ基礎といった本格的なものは素人では難しい。独立基礎といって束石に柱をつける方式にしました。
季節は冬。凍って硬くなった粘土質の地面、少し掘ると根ばかり出てくる。スコップとのこぎりの大格闘劇の日々でした。
苦労したのが水平と垂直取り。これが狂うと後工程全てに影響が出ます。工事現場で見かける遣り方なる方法を試行錯誤しながら作業を進めました。
やっとできた基礎の上に土台材を組み、床下材を張る。斜面に水平な場所ができたときの達成感は忘れられません。
採寸した柱を慎重にカット、一本一本建てていきます。その上に桁と梁を組むわけですが、ここがまた難関。
とんでもない重さの桁を夫婦二人で載せられるはずがありません。
サポーター建築士とどうする?相談。あらかじめ下で組んでおいて、伐採で使うワイヤーで引き上げる作戦に。
立ち上がりました。いやあ、またしても感激の瞬間。
次は母屋。屋根の一番高いところは5メートル。その先は何もない状態。固定させるために脚立の上で支えてくれたヨメさん。生きた心地がしなかったと後で話してくれました。
こうした高所作業、本来なら早い段階で足場を組みます。レンタルする方法もありましたが、長期間になるとコストがそれなり。
無謀にも足場なしの危険な方法を選んだわけです。決しておすすめできるやり方ではないですね^^;
長くて反りがある垂木を一本一本掛けていき、やっとこさ家の外形が見えてきました。
おっと、こんな調子で書いていたらとんでもない量になりそうです。ここからはざっくり工程だけにしますね。
この後は屋根、壁下地、外壁張りで外完成。
家の中に移り、断熱材、天井板張り、石膏ボード、根太、スタイロフォーム、フローリング、漆喰、間仕切り、洗面台、キッチンづくりと続いていきます。
その一つひとつに想像もできないハードルが待ち構えていました。どうする?どうする?の連続。一つひとつ語れば尽きることはありません。
ご関心があれば、こちらの記事をご覧になってください。作業をしながらリアルタイムで小さな家づくりの一部始終を記録に残しています。
最後の最後、これまた超難関だった玄関を取り付けていったん住める形に。
時間と手間と努力、そして愛情。全てが詰まった自分たちだけの家が出来上がった日むは、着工から2年の月日が過ぎていました。
実はまだ細かなところができていません。こうしたい、ああしたいというのもあります。
完成がなく、いつまでも育てていける家というのもセルフビルドならではの愉しみと言えます。
森の小さな家の魅力|実感したメリット
森の中の小さな木の家は、シンプルで心豊かな暮らしを求める人にとって、とても魅力的な選択肢です。なぜなのか?ポイントを整理してみますね。
木と自然に溶け込む住空間
森の中の家、全てに木を使うことにこだわりました。桁、梁、柱などの構造材は地域で知り合った製材屋さんに切り出してもらいました。
外壁には信州ならではの唐松を使いました。唐松が見せてくれる森との一体感は格別です。塗装はせず月日とともに変わる姿を愉しみたいと思っています。
内装は木と漆喰で仕上げました。温かみのある組み合わせはベスト。数日ぶりに家に入ったときに香る木の匂いに毎回心が躍ります。
洗面台やキッチン天板は全て手づくり。フィールドに自生していた赤松を伐採、チェンソーで製材、カンナをかけて使いました。
プロがつくるクオリティにははるかに劣る出来栄え。でも自分たちが来るずっと以前からこの地に生きてきた樹木。大切にしたい気持ちとずっと一緒に暮らしていけることを考えました。
森との一体感にもこだわりました。朝ごはんの時間、リビング窓から自分の森の変化を眺め、やってくる小鳥たちに気づく快感。これに勝る贅沢ありません。
シンプルでミニマルな暮らし
小さな家はとても限られたスペースです。あれこれ物を置く場所もありません。だから本当に必要なものだけを厳選することになります。物に縛られるストレスもなくなりました。
小さいながらキッチン、トイレ、シャワーを完備。暮らしていくのに必要な設備は整っています。一般的な小屋にはこういった設備はありませんよね。
ある日、町の自宅マンションを振り返ってみました。考えてみるといつも使っているところは限られています。それ以外は収納、もっと言えば倉庫みたいな感じです。
毎日を暮らしていくのに、実は大きくて広いスペースなんて要らないんですよね。
家全体が自分の手の届く範囲にあり、掃除や維持も簡単というのもメリットですね。
お気に入りの小さな家、自分たちが気に入った物だけを長くていねいに使っていこうという気持ちが芽生えていきました。
建築プロセスの充実感
家づくりの工程には「あちゃ~」「やっちゃった~」という場面が必ずありました。「どうする?どうする?」と暗中模索になることばかり。細かな失敗は数え切れません。
でもその一つひとつが思い出の1ページ。かけがいのない出来事の集約です。他ではできない経験と技術らしきものが身につきました。
自分たちの手でつくり上げた家は単なる住居ではなく、まるで「作品」のようです。その達成感は何ものにも代えがたく、家に対する愛着を深めています。
建売りとか誰かに頼んで建てた家とは比べ物にならない価値があります。お金ではないんですね、心の豊かさって。
光熱費が掛からない
家が小さいと光熱費を抑えることができます。断熱材もしっかり入れたのでそれなりの温度調整になっています。
今のところの熱源は石油ボイラー。予算ができたら薪ストーブを導入、周囲の木々から燃料を調達して自然循環できるスタイルにする予定です。
心がやすらぐ
住んでいて日々感じるのは木の香り。森林にはフィトンチッド効果と呼ばれる効用があるそうですが、木は心をリラックスさせてくれます。
朝、眺める自分たちの森の景色。毎日少しずつ変化しているのがわかるようになります。そんな木々たちをボーっと眺めているだけで心が落ち着いてくるから不思議、決して飽きることはありません。
森は静けさに包まれます。夜になるとあたりは真っ暗、物音ひとつしない空間に。たまにフクロウが鳴く声が聞こえることもあります。
コストが抑えられる
自分でつくるのですから、建築費用はその分抑えられます。もちろんコストと引き換えに時間と労力が掛かるというデメリットが出てきます。
このことをデメリットと考えるのか、それとも豊かな人生のひとコマと考えるのか。取り組む人の価値観ですね。僕たちはダンゼン後者です。
自分の手でカスタマイズできる
全ての箇所を自分でつくっているので、どこをどうすればアレンジできるかがわかっています。森の木を使えば新たなものをつくることもできます。
家づくりに入る前、展示場でキット製作のものを見て回りました。どれも出来合いで自由度がなくワクワクしませんでした。つくられたものは味気ないんですね。
コンパクトなのでメンテナンスもしやすくなります。自分でつくった家を自分で手入れしていくのも愉しみのひとつになるでしょう。
小さな家でスペースに限りが出たら、新たな建屋をつくることもできます。僕たちの場合はここで商いをするため、事務所兼店舗として小屋を増築しました。
森を拠点に自分たちでつくったお店で小さな商いをはじめる、、、今後はそんな仲間も増やせたらなあと妄想しています。
森での生活のリアル
森での暮らしは、四季折々の自然を体感する素晴らしい時間の連続です。
春は芽吹きの匂い、夏は木々の緑陰、秋は紅葉、冬は雪景色。小さな家だからこそ、その一つひとつを深く感じ取ることができます。
小鳥がやってきて木枝から木枝へと飛び回る様子を見ながらコーヒーを飲んでいたとき。「これが本当に豊かな暮らしなんだ」とふと感じたことがあります。
小さな家に住むことで、自分たちにとって大切なものをより明確にする時間が増えていきました。
小さな家だからこそ得られる時間の余裕、余白をもつことの大切さ。人間らしい暮らしがここにあります。
小さな家は身近なところから
こうした経験を通じて感じたのは、「誰でも自然と共に暮らす選択肢はある」ということです。
大きな家や豪華な設備は必ずしも豊かさを意味しません。シンプルな暮らしの中にこそ、自分にとって本当に大切なものが何かを見つけられるのではないでしょうか。
いきなり家づくりはハードルが高いでしょう。であれば身近なところで試してみるのもあり。
たとえば、今住んでいる家の一部をミニマルに整理したり、自然素材を取り入れる小さな工夫から始めることもできます。
少しずつ暮らしをシンプルにし、自分にとっての「豊かさ」を再発見してみてください。
小さな家づくりのヒント
セルフビルドの過程で僕たちが学んだことをいくつかご紹介します。
プロの視点を入れる
設計や材料選びを慎重に行い、段取りや手順をつくってできるだけ効率よく作業が進むようにしたいものです。
ここに大きな窓をつけたらいい感じになりそう。素人的に考えますよね。でも実は耐震としては構造上NG、、、といったことが起こります。
住まう家だからこそプロの視点が必要になります。できたら節目節目でアドバイス、チェックしてもらうことをおすすめします。
小屋レベルであれば自己流も許されるでしょう。でも生活していく家となれば別物ですよね?
構造上の欠陥や雨漏りは致命傷です。ここにはプロの視点が必須になります。
一に図面、二に図面
家づくりの要は図面です。サイズや方向、形など材料づくりの基準になるのはもちろんのこた、作業プロセスでわからなくなったときの拠り所です。
建築後の行政手続きで図面を要求される場面も多々あります。特に建築基準法がらみでは必須です。素人が書いたものなんて通用しません。
お金は掛かりますが、ここでもプロの力を借りることを惜しまないでください。
インフラ整備を念頭に置く
森の家は町とは違って水道、電気、ネットなどの生活インフラが整っていません。自分で構築していくことになります。
山の中何もないところからだと途方もないことになります。僕たちは別荘地利用をおすすめしています。別荘地なら敷地近くまでインフラが来ていて具体化しやすいからです。
こうした基盤部分は専門プロに任せた方がいいです。免許ができない工事も多数あります。
初心者が知っておくべきDIYの知識
木からカタチをつくっていくための基本知識と技術は学んだ方がいいです。たとえば、電動工具でいうと、インパクトドライバーと丸のこ。必須の道具、必須の知識です。
基本をマスターしたら少しずつ広げていけばいい話。一度に道具を揃えたり勉強したりすると的外れでお金と時間のロスが出ます。
ちなみに僕は今回の取り組みをするまでDIYとは全く縁のない人間でした。
むしろ、そんな面倒くさいこと、、、といったイメージすらもっていた方です。
そんな自分がハマってしまうほど、家づくりは深くて面白い分野です。
自分で自分のことをやる。そんなDIY知識と技術、少しずつ習得していくのも見える世界を変える第一歩になります。
森の家が教えてくれたこと
小さな家での暮らしは、豊かさの本質を考える貴重な時間を僕たちに与えてくれました。
自然の中で、自分たちが本当に必要とするものを見つけ、手づくりの家に囲まれた日々。これ以上の贅沢はないと感じます。
もしこの記事を読んで「自分も試してみたい」と思った方がいれば、ぜひ一歩を踏み出してみてください。
自然と共に暮らす選択は、きっと新たな発見と今まで見たことがない人生の景色をもたらしてくれるはずです。